「恐怖を恐怖する」

「恐怖を恐怖する」

少々興味深いデータに触れたので、紹介を兼ねて。出典は、こちら。 

○「危険な」飛行機の利用を控えたら、自動車事故が増えた

人には、「恋を恋する」傾向があるようですが、どうやら「恐怖を恐怖する」のも、避けがたい傾向のようです。

2001年に世界貿易センタービルで起きたテロ事件の発生から1年間ほど、アメリカでは、飛行機の利用が極端に減少しました。ハイジャックに遭うこと、テロに巻き込まれることを、人々が恐れた結果です。

飛行機の利用をやめるならば、他の交通手段を利用するしかありません。当然、車の利用量も増えることになります。 

さて、その結果何が起こったかというと、当たり前のようですが、自動車事故による死者数の増加でした。

その数、前年比で1,595人増。

これがどのような数字であるかというと。 

・貿易センタービル、ペンタゴン、それぞれへの攻撃を含む一連のテロの犠牲者数は、約3000人と言われています。ですので、1,595人というのは、その約半分。結構な規模です。

・犠牲者のうち、飛行機の乗客だけに限れば246人。なので、1,595人はその6倍。こう見ると、交通事故の死亡者数増の顕著さが際立ちます。

・同時多発テロの1週間後に起こった炭疽菌によるテロの犠牲者数は5名。ということは、1,595人はその319倍。テロの被害者よりはるかに多い…。

○飛行機と自動車の危険性―比べてみると…

この調査をしたドイツの心理学者さん、律儀に以下のような計算をしています。 

・1年間、毎月1回(つまり1年で12回)のフライトでハイジャックに遭って亡くなる確率=1 / 135,000

・1年間で、自動車事故で亡くなる確率=1 / 6,000

この確率をもとに考えると、自動車での移動よりも飛行機での移動のほうが安全だということになります。なので、飛行機を避けて自動車を選んだ行動は、かなり非合理的なものだったということになります。

○理屈に合わない恐怖に振り回される私たち

この行動を生んだきっかけは、著者曰く、「イメージ」。繰り返し放送される、事故の瞬間の映像、遺族のインタビュー、次に来るテロの恐怖を煽る報道などなど。これらによって、人々は、unreasoning fear 理屈に合わない恐怖(心)を抱いてしまった―そう、著者は言います。 

自動車事故の死亡者数の増加については、ほとんど誰も注目していないそうです。また、当事者である遺族も、この増加の事実、いわんやその背後関係についても、理解していないそうです(仕方のないことですが)。つまり、遺族は、愛する家族の命を奪ったのは、日常生活で起こりうる交通事故―残念ではあるが、現代社会に生きる上で受け入れなければならない、言わばコスト―であると考えているわけです。

しかし、著者によれば、実際は、彼らはそんな理由で亡くなったのではない。愛すべき家族の命を奪ったのは、比較的安全な飛行機を避けて自動車の利用に殺到した、人々の恐怖(心)である―ということになります。 

unreasoning fear 理屈に合わない・根拠定かならぬ恐怖が、新たな悲劇を生んでしまう…なんとも皮肉な現象です。

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